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ミスター・ノーフィッシュ
当時、6月の3週目に釣りに来る人は僅かしか居なかったが、我々がここに来るようになってから、ホテルで毎回顔を合わせるノルウェーのファミリーがいた。私は前年、彼らが誰も釣れない時に魚を持って帰ってくるものだから、何処で釣っているのか尋ねてみた。彼らはフォスのプールで釣っていた。大部分がボートの上からハーリングで釣るため、面白くないと、誰からも聞かされていたが、面白くないと言う人の中で、実際に釣った人は居なかったから、どんなものか試してみたかった。それに、何と言っても、誰も釣れない時期、彼らは毎日のように魚を担いでホテルに帰ってくる。見せつけられる方はたまったものではない。我々もフォスで釣りができるよう、あちこち頼んでみたのだが、一向に要領を得ない。聞く人全てから違った答えが返ってくる有様で、オーナーも費用も、本当の所さっぱり判らない。判ったのはビートに空きがないことと、予約を取るのが極めて難しいことだった。
サーモンの世界ではビートを予約する場合、前年度の同じ週に釣りをした人が、翌年も優先的に予約できる権利を持つのが習わしとなっている。フォスで釣るために翌年のビートを予約したくても、今年釣った人が来年も釣ると言えば、永久に空かないことになる。まして、何人もの人が予約の申し込みをしているとなれば、新規に予約を取るのは殆ど不可能に近い。
彼らはこの年も毎日のように魚を担いでホテルに帰ってきた。それにひきかえ、フォスの上流域は釣りをするのが無駄と言ってもよいほどだ。我々には魚どころか、当たりもなければ魚影すら見えない日が続いていた。多くのアングラーが諦めて帰ってしまったが、我々はそうもいかないから、唯ひたすら魚が来るのを待つしかない。そんな中、我々が釣りを終えてホテルに戻ると、彼らはにこやかな笑みを浮かべながら、ミスター・ノーフィッシュのご帰還だと言い出す始末だった。
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