やがてどこにこんなにたくさんの魚がいたのかと思う程あちこちでライズが始まる。私はもっとも大きそうな魚に狙いを付け、その魚の数回のライズをやり過ごし、次のライズでフライを波紋の1m程上手に叩き込んだ。ロッドを高く保ち、ラインをほんの少し張ってライズのあった辺りまでフライを送り込みスイングに移行にする。ほんの30cmもフライが流れを横切っただけでバシャという音とともに魚がフライを捉えた。ゆっくりと合わせると「ドスン」という懐かしい感触がグリップに伝わってきた。魚を取り込んでいると視界の片隅で別の魚がライズをする。すばやく魚を外し、すかさずフライを投げる。またもドスンという手応えとともにロッドが大きく曲がる。
初期は30センチ前後の魚が中心であるが、入れ食いのお祭り騒ぎの釣りだ。釣っては放しの繰り返しでフライはボロボロ、両手は魚の粘液だらけになってしまった。すっかり夢中になってしまい、側から見たらまるで子供がはしゃいでいるような光景に違いない。ちょっと気恥ずかしさを覚えながらも水面でバシャという音がすると再び子供に戻ってしまう。解禁直後の釣りは何度経験しても頭の中が真白になってしまうくらい興奮し、本当に楽しい。
ライズの間隔が次第に長くなり、魚の気配が急に失せる。底冷えがし、気が付けば冷たい風が時折頬をかすめる。私は予想をはるかに上回る活躍を見せたマドラーミノーにすっかり有頂天になっていた。この時期はこれ以上フライを投げ続けても無駄なことは過去の経験からわかっている。今までのお祭り騒ぎが嘘のように静まり返った鉛色の川面が鈍く光ってゆったりと流れている。肌寒い風に後押しされるように私はすっかり暗くなった小道を足早に宿に戻った。 |