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サセックスのリールはなぜこれほどまでにぼくを魅了するのか
日本の釣り環境を守る会・代表 木村武義(きむらたけよし)
フライフィッシング歴23年/サクラマス歴5年



リールはいつも傷だらけ

 「フライリールは単なる糸巻きである。だからどんなものでもよい」

 と、つい最近まで確信していた。ところがその確信が崩れた。サセックスのリールを手に入れたからである。
 フライフィッシングを始めて最初に手にしたのは、ハーディのマーキス4であった。このリールはとにかく愛用した。渓で転んでスプールが変形しても、ヤスリで削って直しては、また転び、また直すということをくりかえしながら、同じマーキス4をもう一つ買い足しているうちに、とうとうサーモン3までの全種類を揃えた。なかには同じ番手のものも何個かあった。

 マーキスは、性能やデザインについては可もなければ不可もない、といったところで、厭きはこないが大切にしたくなるような愛着も沸かない。だからぼくは釣友があきれるくらい乱暴にあつかい、またよく落としたりしたからどれもこれも傷だらけである。この現象は、マーキスの値段が安いことに端を発していることもあるが、「道具はそうした使われ方でいい」とも思っていたことがそうさせたのだ。

 こうした道具のありかたをうえつけたのは、登山に夢中になっていた古い昔、当時登山界で最も先鋭的かつ素晴らしい活躍をしていた、今は亡き登山家K氏と真冬の穂高で偶然出会った時のことが大きく影響している。

 目的のルートに向かおうとして山稜に立ったK氏が、ぼくにはまぶしく見え、眼はK氏のピッケルに釘づけとなった。K氏のピッケルはぼくのものと同じであったが、輝かしい数々の登はんの歴史が刻まれて傷だらけになっていたからであった。まだ記録に残るほどの目立った登はんをすることもなく、真新しいピッケルを持つぼくは無性に「恥ずかしい」とも思ったのだ。

 それからだ。ぼくのなかで変化が起き、価値観が変ったのは。「使い込むことによって傷がつくのは、道具を持つ人の歩みを印すものであり、それがいいんだ」と思うようになったのである。 

シロザケを釣ってからというもの

 そうしてマーキスを無造作に扱い、傷がつくことも平気でそこそこ満足できる釣りを楽しんでいたのだが、秋になるとシロザケ釣りを楽しむようになってから、性能に対する不満が生まれ、マーキスの評価が変わってしまったのである。

 ご存じのようにシロザケはけっこう立派にファイトする。例えばマーキスサーモンでシロザケを掛けたとしよう。まず一回目の走りは強烈であるから、マーキスサーモンはその走りについていくのがやっとのありさまで、危うくバックラッシュを起こしそうになることが多々ある。問題はそれからだ。寄せては走られるシロザケのファイトに、マーキスサーモンはドラグをどんなに強く締めてもただ悲鳴を上げるだけで、先手がとれるだけのドラグの効きがないから取り込みに時間がかかる。

 そこで、「やはりサーモン釣りには、ディスクブレーキが付いていなければいけない」と悩んだ末、R社のディスクブレーキ付きシリーズをいくつも揃えた。

アラスカで

 ある年、あこがれのアラスカに行くことになって、すでに何度もアラスカへ行っている釣友のうんちくに耳を傾けているうち、釣友が3回のアラスカ行きで1匹のキングサーモンしかランディングできなかった理由が分かった。

 そのうんちくとはこうだ。

「キングサーモンがかかったらひたすら巻き取れ、ガンガン巻くんだ。前回のときにTはティペットが切れ、尻餅をついて取り逃がしたがまだ未熟だ、修行が足りない。リールはアンチリバースに限る・・・」

 いやはや、そのとうりにしないでよかったとつくづく思う。釣友は、再びアラスカでキングサーモンを掛けてはティペット切れの連続を起こし、ティペット切れしない場合は、一度テンションがかかったら巻き取ることのできないアンチリバース式リールでのやりとりに、ただキングサーモンに翻弄されるだけで一匹もランディングできなかったからだ。

 ぼくの場合は、ノルウェーのガウラでアトランティックサーモンとファイトする沢田賢一郎さんのビデオを見て充分に学習し、R社で最も大きいダイレクトドライブ式ディスクブレーキリールを使用して、宿泊したロッジの記録になるくらいランディングに成功したのだった。
 しかし、強烈に突っ走られ、さしものR社のリールもただ悲鳴を上げるだけで何もできず、走りを止めようとフラットビームを押さえた手に火傷を残して去った何匹かのキングサーモンがあった。だがこれは、リールの性能からくることではなく、その場所が取り込みにくい場所であったことが原因なのだが、そこで生まれた悩みは、R社のリールは精度が悪く、ときどきフラットビームがスプールの隙間に挟まることだった。



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