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こんな時は最高に楽しかったシテュエイションを思い起こすのがいい。5月下旬、ウエットフライのベストタイム。天候は霧雨、冷え込みがきつく、吐く息が白くなるくらい寒い。時折ライズの音が遠くで聞こえ、まだ鱒が上ずっている。昨年、60オーバーのブラウンを釣った日と同じような状況をイメージし、自らに楽しい暗示をかけた。これで舞台は整った。後は主役の登場を待つだけだ。そんな雰囲気に浸りこんで上流部きっての川が大きく蛇行するポイントの少し下流に立った。
ここは流芯が対岸を通っている。手前の岸側は昼間見るとばかばかしいくらい浅い。ここを攻めるキーポイントはスイングの後半からロッドワークでフライに生命を吹き込むことだ。ラインの長さや投げる角度は体が全て記憶している。第1投目、核心部と思しきポイントの2m程手前に慎重にキャストした。フライを1m程ドリフトし、更にロッドを送り込んで、その限界でラインを張る。その時だった。「ドスン」ロッド全体を抑え込むような重厚な衝撃が襲った。直ぐにロッドがグイグイ絞り込まれていく。予想もしなかった主役が本当に登場した。
フックも大きく、スイング前半のストライクなのでフッキングは絶対に大丈夫だ。あっという間に僅か7m程のラインが倍近く引き出された。ここは両岸とも障害物だらけで、そこに突っ込まれたら万事休すだ。ロッドを流芯に思い切り突き出して、反発力を最大限に活かし、プレッシャーをかけながら懸命に走りを最小限に抑える。本来なら思い切り走ってもらいたいが、それを許したら間違いなくブッシュへ一直線だ。鱒の動きを慎重に見ながらロッドを思い切り曲げ、その曲がりの限界でリールを抑えた手を緩めながらラインを小出しにする。出て行くラインに対して思うように回収できない。恐ろしく強烈なパワーだ。
既にブッシュに潜られているかもしれない。これ以上下流に行かれては取り逃がす危険性が大きい。フッキングしてから約7分が経過した。1Xのティペットを使用していたが、さすがに心配になってきた。ここで相手は突然大きなジャンプをやらかした。着水時のスプラッシュの激しさは正に丸太棒を投げ込んだという表現がぴったりだ。「でかい」じわじわと緊張感が高まる。よく釣れる50cm前後の鱒でないことを確信した。上手くプレッシャーを掛けられたのか、縦横無尽に暴れまくる割には、障害物には潜られていない。正攻法で戦いを挑んでくる相手に気持ちが落ち着いた。このまま上手くいってほしい。
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