TROPHY CLUB

2003ガウラ釣り紀行 by 平野 秀輔

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レナのムービングフィッシュ

 待望の雨が降り、川は増水し始めた。次のビートBにはレナプールがある。昼の12時から夜の12時までだが、 増水が落ち着いてくれることを期待して夜に賭けることにした。そしてその次はまたティルセットのあるビートCだから、夜中に続けて行こうと考えた。

 夜7時にレナの右岸に着くと、左岸側はチャンスとばかりに4人ほどのアングラーがルアーやフライを振り回している。支度を終えていつも目印にしているアシカの形をした岩の20メートル程上流、川幅が一番狭くなっている部分に向かって歩いていくと、なんと向かいのアングラーが投げたルアーにサーモンがヒットした。





2本目のサーモン。3.1kg、75cm。
(AF Nikkor 50mm F1.4D)

 来ている。それもルアーに食いつくくらい食い気のあるサーモンが来ている。この群れを逃す手はない。レナプールの左岸はそう高くはないが崖である。ネットもギャフも見えないので、あそからどうやって取り込むのだろうと、一方では心配し、一方では早くけりをつけてくれないと投げられないじゃないか、とイライラしてきた。10分ほど経ったろうか、ルアーマンの連れが川に立ちこみ、ロッドから伸びたラインを手にしたときに全てが終わった。そんなことをすれば当然の結末なのだが、彼ら4人は全員で残念会を始めた。

  「よし今だ。」とプールの最上流に立ち、フローティングラインの先のエムシュリンプ#8を対岸ぎりぎりに投げ始めた。3投目にリールがジージーと逆転する典型的な当たりがあった。ラインが十分に引き出されたことを確認し、ラインを右側に張り、ゆっくりセットフックした。最初はまあまあの抵抗をしたが、フッキングは悪くないと思い、1712Hのパワーで強引に引き寄せると、魚はいとも簡単に岸に寄ってきた。

  グリルスかと思ったら小さなメスである。海から上がって大分経っているのか、体は茶色っぽく、しかも尾ビレの下が擦り切れている。計ると75cm、3.1kg。今まで釣ったサーモンの最小記録更新であった。フッキングを見るとサーモンの舌にダブルフックが2本とも突き刺さっている。

 まだ必ず来ると思い、フライを投げ続けたがそれ以降何の当たりもない。何か変だ、もう少し続いてもいいのに。サーモンをクラブハウスで計り、そのままティルセットの左岸へ。ここでもリトリーブ中に根がかりの様な当たりを一度感じたが、何事もなく静かな一夜が過ぎてしまった。




クルモのシートラウト

 水曜日の午前零時からNFCの上流ビートE+Sが始まった。ビートEはシンクソスの駅の少し上流にあるクルモで、ビートSは更にその上流にあるアッパーシンクソスである。まず昨年とほとんど変わらぬ景色のアッパーシンクソスを釣る。最初は注意深くウェーディングし、岸よりから対岸近くまで丹念に釣ってみた。その後は岸近くの大きな石に上がり、対岸の一点に向かってさまざまなフライを流してみた。2時間ほど粘ってみたが、サーモンのジャンプも全く見えず、さすがに飽きたのでクルモに向かった。

 ビートEクルモは左岸側からの釣りで、上流、下流に送電線が通っており、そのうち上流側の送電線の下が実績のあるポイントである。パーキングとして指定された場所にはクローバーの花が咲き、この近くでサーモンやシートラウトが釣れると思うと、ここはヨーロッパなのだと少し感慨にふける。20年以上前になるがフライフィッシングを始めたころ、クローバーの草花の上に置かれたブラウンやシートラウトの写真を見ると、一生そんな光景を味わうことはないだろうと思っていた。

  そこからとぼとぼと牧草地を5分ほど歩き、雑木林を抜けると一気に広々とした流れが目の前に広がる。「なんてすがすがしい景色だろう。」川が浅くなっているため川幅は50m以上もあり、ひざの上までウェーディングすると、バックキャストを妨げるものは何もなく、下流を見るとただただ川が広く流れていく。こんな場所に立ったら誰だって思い切りラインを伸ばしたくなるだろう。フライフィッシャーマンにしかわからないこの開放感。それがローウォーターのクルモにはあった。

  思い切り遠くへラインを飛ばしたい欲望を抑えて、川をじっくり眺めてみると送電線の上流から右岸によった部分が黒く見える。つまり深くなっているのだ。幅にして10m、ウェーディングしている位置からその端まで直線で20mほどか。手前側に大きな石が沈んでおり、それが流れに変化をつけている。ラインを空中に保ち、その変化の部分を完全にクリアしないとドラッグがかかってしまう。そこで普段のように手前から順に釣ることを止め、最初から黒い部分の対岸側までフライを届けようと、それに必要なラインをリールから引き出した。






クルモプール。写真を撮ったときはウェダーを履いていなかったので、開放感が今ひとつ。
(AF Nikkor 20mm F2.8D)



エムシュリンプ#6

  一投目、フローティングラインの先のエムシュリンプ#6は、対岸側の黒い部分の境目にしぶきを上げながら突き刺さった。一投目にしてはほぼ完璧だと思っていたら、ラインが左側に曲がって流れている。「何でドラッグがかかるのだろう。」とロッドを上流に上げメンディングをした瞬間、フライが着水した地点に近いところで「ガボッ」と魚が水面を割った。

  何が起きたのか全くわからなかった。それからリールが逆転し、やっと魚がフッキングしていることがわかった。さてどうしたものか。メンディングしてしまったから通常のフッキングとは逆方向にラインを張ったことになる。ここは魚が止まる頃合を見計らって、もう一度しっかりフライを掛け直したい。リールの回転が遅くなり、そろそろ止まると思われたとき、リールを押さえ、ロッドを岸に向けてゆっくりフッキングに入った。ロッドのバットが曲がり魚の感触を十分に感じる。よし大丈夫だろうとリールを巻く。フライラインの手前まで巻くとまた走る。先ほどのジャンプといい、その引き方といい、魚はあまり大きくないことはわかる。「たぶんグリルスだろう。」

  そこで1712Hのパワーを使って一気にポンピングしながら巻き上げた。ローウォーターで、かつグリルスサイズにこのロッドは完全にオーバーパワーである。しかしなるべく早く取り込んですぐに次のキャストをしたい。魚の引き味とその手返しのどちらを選ぶといわれれば、後者を選ぶほうだ。おかげで瞬く間にリーダーの結び目が見えるところまで魚は寄ってきた。ふと後ろを振り返ると、ランディングの邪魔をしそうな石が3つほど水面から出ている。グリルスでも岸が見えると暴れるものだ。もう一度走ったら石のない下流に移動しようと思い、慎重にロッドを構えていたが、魚はそのまま止まったきりで、一向に走り出す様子がない。仕方なく慎重に岸の方向へ後ずさりすると魚は何の抵抗もなく付いてくる。何か拍子抜けしたので、面倒とばかりにそのまま岸に引き上げた。

  「最後に引かないグリルスだったな。」と思い、魚を見ると斑点がある。何かの見間違いだと思い、もう一度良く見ると、やはり全身に斑点があり、尾鰭も小さい。またシートラウトだ。しかし一昨日のサイズではなく、グリルス位のサイズがある。口を見るとエムシュリンプ#6を深々と飲み込んでいる。後で計ってみると1.9kg、60cmであった。






シートラウト。1.9kg、60cm。緑の草と白い花。なんともヨーロッパ風。
(AF Nikkor 35mm F2D)




シェフ特製ムニエル

 釣りを終え、パーキング近くの草の上にシートラウトを横たえた。白い花と緑の草。とうとう遠い世界と思っていたヨーロッパの釣りができた。しみじみとした感慨の反面、「ちょっとノリ過ぎか・・・。」と自嘲の思いもした。

  余談だがこのシートラウトはホテルにプレゼントした。一度は食べてみたほうがいいとマリアンが言うので、シェフに頼んだところ、翌日のディナーとして二切れほどが、立派なムニエルとなって食卓に上がってきた。食味の方?うーん個人的には一度食べたらいいかなあというものだった。しかしこのバターたっぷりのムニエルは少々胃にこたえ、食後一時間ほどベッドに横たわってしまった。

(AF-S Zoom Nikkor ED24-85mmF3.5~4.5G)




後悔

 シートラウトを釣ったその日の午後、川はまた少し増水し、今までと何かが変わったような気がした。ビートAホームプール、スビーラを日中に3時間ほど試してみるが、何も起こらない。夜になり、またホームプール、ビートBレナとひたすらフライを投げ続けるが、何の反応もない。レナでは釣りをはじめてから一時間ほどした後、投げたエムシュリンプ#8が無視され、後から投げた沢田さんのブラックフェアリー#6にサーモンが食いついた。

  エムシュリンプはもう効かないのか。それからブラックフェアリー、グリーンワスプ、トレブルフックに巻いたフィッシングファイアーとローズマリーなど、いろんなフライを試してみたが何もない。最後には駄目元と、去年レナで2本釣ったフィッシングファイアー2インチをインターミディエートラインにつないで投げるが、やはり何も起こらない。沢田さんも後が続かない。何故、どうしてなのだろう。

 夜が明けたのでいったんホテルに戻り眠る。午後1時近くからビートCティルセットを釣る。雨だ。待望の雨だ。しかし増水中のサーモンは釣れないという言葉どおり、夕方6時までロッドを降り続けたが何の反応もない。いったい川はどうなってしまったのだろう。何かもう今週中にサーモンは釣れないのではないだろうか。へとへとになってホテルに戻るとバレンティンがいた。


レナプール。手前のアシカ岩は平水では水の中。釣りをしたのはこの岩よりずっと上。
AF-S VR Zoom Nikkor ED70~200mmF2.8G



「ヒラノ、今日は寝るな。ビッグチャンスだ。」
「本当に?全然釣れる気がしないよ。どうやって釣ったらいいの?」
「シンキングラインにプラスティックチューブで釣るのさ。」
「このローウォーターで?」
「それがローカルメソッドさ。」

 そういわれると休んではいられない。夕食をとり、早速出かけようとしたが、例のシートラウトのたたりか、少し部屋で休んでしまう。9時ごろティルセットに着くと、ティルセットの上流から帰ってきたアングラーが、10kg超の雄のサーモンと銀色まぶしいグリルスをぶら下げていた。

  レナとティルセットの間はNFCのビートではない。その間でサーモンが釣れたと言う事は、もっと早く着いていればティルセットでそれに遭遇していたのだ。しまった。遅かった。少しぐらい胃がもたれていても駆けつければよかった。川原を急ぎ足で歩いてティルセットの左岸に立つ。

  まだいるかもしれないサーモンを狙って、タイプIIIにスティングレイ2インチをつけて投げ続けた。むきになって投げ続けた。一度だけかすかな当たりがあったが、それ以外は何もない。ああ、最大のチャンスを逸してしまった。フライを投げながら、なんだか自分がとても情けなくなってきた。



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