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'01  驚異の体高に驚嘆 レインボートラウト 51cm,  2.15kg!
天野 治 (あまのおさむ) 埼玉県在住  Osamu Amano in Saitama 【Japan】
フライフィッシング歴23年 / サクラマス歴1年
Osamu Amano Rainbow Trout
まるでヘラブナのような体高のレインボー。シャノンと78が小さく見える。
MY TROPHY | MY RECORD
魚種 Species レインボートラウト Rainbow Trout
体長 Length 51cm
体重 Weight 2.15kg
フライ Fly & Hook Size Black and Orange tied on the TD3 Classic Sproat #12
ロッド Rod KS SF SHANNON
リール Reel KS SU 78 Green
釣った日 Date of Catch 2001/07/21
釣った場所 Place of Catch 桂川
IMPRESSIONS

ある日のイヴニングライズ

都会は灼熱地獄でも、さすがに富士の裾野まで来ると暑さも幾分やわらぎ、涼を感じる乾いた風がほてった体に心地よい。定宿に早めに到着し、木陰の部屋で昼寝を決め込むとする。この川が好きで毎週のように通ううちに、こんな昼寝が習慣になってしまった。好きな本を読みながら眠りに落ちる快感は、仕事に疲れた心と体になくてはならない憩いの一時だ。

見上げる夏の赤富士に山小屋の明かりが点々と灯り、風が一層涼しさを増す頃、エキサイティングなイヴニングライズの釣りが始まる。晴天続きで鱒の反応は悪いだろうな・・・。モーニングライズの方が可能性が高いかな。様々な不安が頭をかすめるが、久しぶりのイヴニングライズに興奮を抑えきれない。あまり細かい戦略は考えず、先ずは大らかに6番のドロツバーと8番のリードフライの組み合わせで、いつもの場所から釣り下る事にする。

予定のコースを約1時間で釣り下った。やはり悪い予感が的中した。唯の一度の当たりもない。途中で出会った数人のフライマンも苦戦を強いられている。時折小型がライズするが、明確なピークが無いまま泣かず飛ばずのイヴニングライズも終宴だ。「今日は駄目かな」という諦めの気持ちと「絶対に喰わないはずがない」という信念が交錯していた。「よし、仕切り直しだ」弱気になっていく自分自身にそう言い聞かせ、今しがた下ってきた小道を足早に上流に戻った。

静まり返った川で

第2ラウンドは思い切って昼間用の12番のフライを結んだ。更に、葦際での無用なトラブルを避ける為、ドロッパーは結ばずリードフライだけで勝負することにした。慎重にキャストを繰り返して釣り下ったが、鱒の反応は相変わらず悪い。時折小型は釣れるが、良型は気配さえ見せない。ここまで川が静まりかえっているとは予想出来なかった。

そうこうしているうちに間もなく予定のコースの終点が近づいてきた。この場所がラストチャンスだ。川底を覆う分厚いウイードベッドと対岸の大きなエグレは良型の絶好の隠れ家だ。更に下流側が浅くなって絶好の餌場を形成している。既に一度釣っているポイントであるが、ここにいないはずがない。そんな確信めいたものがあった。ポイントまでの距離を慎重に読み、ラインの長さ、スイングのコースを変えず、慎重にキャストを繰り返した。

何回キャストを繰り返しただろうか。当たりもないし、ライズすらない。さすがに緊張感が薄れ、いつしかイルミネーションに彩られた夏富士に目が奪われかけていた。

そんな時、とんでもない奴がやってきた。下流にゆったりと伸びるラインに、僅かに違和感を感じた瞬間、ラインがギューンと引かれ、ロッドがグイグイ絞り込まれてゆく。直感的に良型と分かる当たりだ。微妙な位置での当たりだけに、全ての動作を停止し、ロッドの曲がりに全神経を集中した。その曲がりが限界に達した時、リールをしっかり抑え、上流側からラインをゆっくり張った。生命感に溢れた重厚感のある動きが伝わってくる。フッキングは大丈夫だ。距離は約12ヤード。水面が大きく炸裂し、白い水柱が暗い空間にばんやり見える。「ドタン、バタン」と激しい反転音が今までとは異なる魚体の大きさを予感させた。

足元に菱形のレインボー

まるで鯉のようなトルクのある引きに辺りの川辺を引き回された。驚異的なパワーを見せた暴れん坊も、シャノンの強靭なバットから生まれる反発力に、5分程のファイトで足元に寄ってきた。いつもそうであるように、最後に猛烈な抵抗にあった。至近距離における水面付近での激しいファイトは、ラインテンションが急激に変化しやすく、フックが外れやすい。緊張の一瞬だが、シャノンの柔軟性を上手くいかし、事無きを得た。最後は、人に見せられないような大きなネットですくいあげた。

上がってきた魚は50センチクラスの虹鱒だった。今シーズンは既にこのサイズを6匹釣っている。しかし唯一の違いはその驚異的な体高だった。まるでヘラブナのような魚体はそのサイズを差し引いても写真に収める価値は十分だ。これだけの魚体を維持できる餌を、供給し続けるこの川の生産能力の高さに、改めて驚嘆させられた。

しかし、釣りはやってみなければわからない。果ては最後まで何が起きるかわからないものである。ひんやりとした風が吹き抜けてゆく川辺で、足元に横たわる菱形の虹鱒を見ながら「川が静まりかえっている時に良型が出る」という名言を思い出していた。