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'01  最終日のモーニングライズで レインボートラウト 55cm!
天野 治 (あまのおさむ) 埼玉県在住  Osamu Amano in Saitama 【Japan】
フライフィッシング歴23年 / サクラマス歴ヒヨッコ!年
Osamu Amano Rainbow Trout
MY TROPHY | MY RECORD
魚種 Species レインボートラウト Rainbow Trout
体長 Length 55cm
体重 Weight 計測せず
フライ Fly & Hook Size Lead Fly: Black and Orange tied on the TD3 Classic Sproat #8
Dropper: Professor on the TD5 Bartleet Sedge #8
ロッド Rod KS SF SHANNON
リール Reel KS SU 78 Green
釣った日 Date of Catch 2001/09/30
釣った場所 Place of Catch 桂川
IMPRESSIONS

シーズン最後のモーニングライズ

9月30日、ついにこの日が来てしまった。泣いても笑っても今日限りで半年間釣りはお休みだ。晩秋の早朝の凛とした空気と朝靄の幻想的な風景が好きで、モーニングライズを狙って川辺に立つ。これで暫くお別れかと思うと、真剣に釣ろうとする反面、感傷的な気分を抑えることができず、気持ちが空回りしてしまう。

いつものポイントに入り、#8のフライを2本結んで流れの筋を丁寧に釣る。既に何人ものフライマンが葦の切れ目に立ち、時折起こるライズにドライフライをキャストしている。そのライズは8m程下流にいるフライマンと私の丁度中間地点のほぼ川の真中で起きた。私が投げるのを躊躇していると葦の陰からライズめがけてスルスルとラインが伸びてきて、ライズの1mほど上手にフライが降り立った。上手い。正にフライを摘んでポイントにおいたようなプレゼンテーションだ。釣られてしまうな。そんなことを思いながらドライフライを目で追った。しかし、ライズの主は彼のドライフライが気に入らなかったのか、何回流しても水面は沈黙を保ったままだった。

そんな時、幸運にも私の直ぐ目の前で先程の鱒と思しき奴がライズした。水面が眩しく姿は全く見えない。しかし、大きくゆったりとした渦を残して水中に没した主は間違いなく良型だ。既に日が昇り、フライに対する反応が悪いのは承知の上だ。直ぐに上流に移動し、ダウンストリームでライズの上手約1mにフライをキャストし、ライズのあったと思しき地点でゆっくりとスイングさせた。2回続けて試みたが、案の定全く無視された。何としてもこの鱒を取りたい。釣り始めの感傷など、どこかに吹き飛んでしまった。

朝日が反射し眩い水面が苛立ちをつのらせる。思わず時計を見やった。もう無理だ。駄目かもしれない。過去の経験からそう直感した。このまま同じ作戦を続けても結果は同じだ。もう時間がない。間もなくあの鱒は対岸ハングの奥深くに姿を消してしまうだろう。フライを結び換える時間ももどかしい。最後の勝負だ。更に1m程上流に移動し、ライズがあった地点の2m程上手にフライを投げる。一度しっかりラインを張って、そのまま流れに乗せた。祈るような気持ちでリードフライからライズのあった地点に真っ直ぐ送りこんだ。そう。ロッドを高く構え、ラインをほんの少し張りながら、流れよりも幾分ゆっくりと…

フライがライズのあった地点を通りすぎ、溜息が出そうになった瞬間だった。大きな鱒がフライが流れていると思しき付近の水面で反転し、その姿を露にした。正に8寸ヤマメがドライフライに出るように。一瞬自分のフライに出たとは思えなかった。ロッドを起こしそうになったが「当たりが伝わるまでは絶対にロッドを動かしてはいけない」いつも呪文のように唱え続けたお呪いが功を奏した。直ぐにラインがギュンと引かれ、ロッドが大きく曲がり、ファイトの開始を告げた。

さあ、本当に最後のファイトだ。鱒は斜め下流に一気に走った。障害物がないので思い切り走ってもらう。心の中で「行け、行け」「走れ、走れ」まるで子供の様に叫び続けた。いや、もしかすると声に出していたかもしれない。下流で釣っていた方を上手くかわして走らせたつもりだったが、鱒は急に反転しこちらに向かって泳いでくる。更に、運悪く、彼の前で大きなジャンプをやらかした。「申し訳ない」と声を掛けるとにっこり微笑んで「頑張って」と気持ちの良いエールを送ってくれた。元気一杯に川中を駆け回る様は随分昔に行った外国の鱒の勇士そのものだ。暫くして足元に寄ってきた鱒は55センチ前後の黒点と朱色の帯が鮮やかな虹鱒だった。

最後の抵抗にいつもはハラハラするが、この日は何故かリラックスしていた。子供の頃、よく行った近所の鯉の釣堀を思い出した。8尺のグラス竿に2号のハリスで50センチを超える鯉を釣った。長さが限られた糸でファイトするので竿先が水中に没することもある。そんな光景が眼前の鱒のファイトにオーバーラップし脳裏に蘇った。

ネットの中で身を横たえる虹鱒は精悍な面構えをしていた。川を懸命に遡上しようとしていたのか、口先が赤く傷ついていた。フライは完全に飲まれていた。不幸にも口腔内の下顎の急所に刺さって、出血が止まらない。気の毒だが助からないだろう。暫く様子を見ていたが、急に腹を返してしまった。苦しまないようプリーストで一気に絞めた。

大きな鱒をぶら下げながら川辺をゆっくり歩き宿に戻った。何人かのフライマンが流れで鱒と戯れている。みんな思いは同じなのだろう。後ろ姿がどこか寂しげだ。シーズン中、何本もフライを取られた憎き木々の枝や、よく足を滑らせた道とも暫くお別れだ。朝露に濡れ重く垂れ下がるススキの穂が、朝の陽光にキラキラと輝き眩い景色が広がる。川辺の景色はすっかり色褪せ、間もなく落葉の季節を迎える。ゆっくり休んでくれ。桂川の鱒たちよ。