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'06  苦悩と根性と意地で釣り上げた ヤマメ 39.5cm!
沢渡 郷 (さわたりごう) 青森県在住  Gou Sawatari in Aomori 【Japan】
フライフィッシング歴8年 / サクラマス歴5年
Gou Sawatari Yamame Trout
2日間、目一杯試行錯誤を繰り返し、遂に釣り上げた老ヤマメ39.5cm。
MY TROPHY | MY RECORD
魚種 Species ヤマメ Yamame Trout
体長 Length 39.5cm
体重 Weight 計測せず
フライ Fly & Hook Size オリーブダン on MU1フラットミッジ#20
ロッド Rod KS AR Oriental
リール Reel KS SU 34 Green
フライライン Fly Line AR-WF-3F
釣った日 Date of Catch 2006/06/25
釣った場所 Place of Catch 秘密
IMPRESSIONS

その日の狙いは決まっていた。

何故、見つけてから二週間も放っておいて釣りに出かけなかったかというと、仕事が忙しいとか家の都合とかそんなことではない。サクラマスのシーズン中なので、翌週(6月17日)はサクラマス釣りに行かなければならなかったからだ。しかしおかげで運良くサクラマスを釣り上げることが出来た。

ようやく渓流に専念できる。まずはあれ以来ずっと頭から離れない例の大ヤマメがターゲットである。
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6月24日、待ちに待った待望の休日。初めて見つけてから13日後の事である。その間、釣られてはいないか、どこかへ移動していないか、常に気がかりだった。是非とも、もう一度出会いたい。祈りながらはやる気持ちで車を走らせ、土曜日の未明に目的地の堰堤へ到着した。

間違いなく尺二寸以上はある大ヤマメ。これにふさわしいロッドとしてARインベンションを選択した。まだ暗いうちからロッドにハニカム45リールをセットし、薄明るくなった頃にはすでに川岸へ立っていた。「第一投目が肝心だ。」魚に気づかれないように水際から10m程離れた位置から狙う。フライはもちろんワイルドキャナリーの#10。一投目を一番良いと思われる流れの筋へ慎重にプレゼンテーションする。狙い通りの筋をナチュラルに流れるが反応がない。その後は堰堤の隅から隅までフライを流すが全く反応がない。

太陽が昇り初めると渓筋にも光が射し込んできた。陽光に照らされ始めたことで張りつめていた緊張の糸が解けた。やはり同じ魚に二度も会うのは難しいのだろう。このポイントは諦めて上流へ行くことにする。
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初めて見つけた時もそうだったが、高巻きして上から覗いたときに大ヤマメを見つけた。今回も同じ場所から魚が居着いていそうな深みを観察する。光が射し込んだ溜まりは水底まで見通しがよい。目を凝らしてみると「やはり居た、奴だ!」その大ヤマメは先程までさんざん流したはずの流れに身を漂わせていた。まだ誰にも釣られていなかったのだ。大ヤマメの姿を見ることができたので安堵した。ほっとするが何故フライを食わなかったのか?。しばらく様子を観察することにした。

ときおり表層の餌を捕りにゆっくりと浮き上がってくる。明らかに水面の餌を食っている。これなら釣るチャンスはある。急いでもう一度川まで戻ることにした。

息を切らせて谷底へ戻り付き、リーダーの先の#10のワイルドキャナリーを外す。先程はフライのサイズが合わなかったのだろう。しかしフックサイズを下げるとフッキングが悪くなる。ゲイプ幅が広いDU1シルバーメイ#14のショートシャンクに巻いたスペントバジャーを選択した。魚の居る場所はわかっている。一投目にその場所へプレゼンテーションするとパシャッとフライの流れていた場所に小さな水しぶきが上がった。

一呼吸おいてから合わせるがロッドには手応えがなかった。「まだアワセが早かったか・・・」自分としたことがなんて失敗だ。
ワイルドキャナリー#10とオリーブダン#20。
とりあえずポイントを休ませることにした。二時間ほど上流部で釣りをしてから再びその場所へ戻る。上から覗くと同じ場所でクルージングしている。気を取り直してもう一度チャレンジだ。

フライは#14のワイルドキャナリーにした。これも反応無し。それではこれではどうだとばかりにでっかいテレストリアルパターン#10のジャシッドにしたが、反応しない。ついに気付かれて隠れてしまったのかと心配になり、再び高巻いて上から覗くとまだ見える。こうなったら長期戦を覚悟して、なんとしてもこいつを釣り上げよう。

粘っても良い結果になった試しがないので、普段は粘るような釣りは滅多にしたことがない。しかし今回の魚は違う。隠れる素振りも見せず、「美しい巨体を見てくれ」と言わんばかりに目の前を悠然と泳いでいるのだから。
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慎重に魚の動きを観察する。頃合いを見計らっては川へ降り、ロッドを振る。川から上がったり降りたりを何度か繰り返すうちに、だんだんと夕暮れが近づいてくる。焦らずに機が熟すまで待つことにしよう。こうなったらイブニングで勝負をつけるしかない。山の端へ陽が隠れ渓へ差していた日差しが消えると、小さな羽虫が出始めてきた。大ヤマメは相変わらずクルージングをしている。

イブニングまでにはまだ1時間くらいある時間帯だが、今までにこの時間帯にドライフライで尺ヤマメを何匹か釣ったことがある。よし、そろそろ川へ降りよう。ドライでダメならウエットの出番もある。ロッドはSDパワースペイに変えて挑むことにした。

ドライフライの様々なスピナーやセッジ、フライサイズも#10から#16まで試してみたが、残念ながらフライをくわえてはくれなかった。

もう一度上から覗いてみることにする。一際薄暗くなってきた溜まりでは大ヤマメが一段と活発にライズを繰り返している。行動範囲もかなり広がって、あっちにいたのが手前に来たりとあわただしく餌を捕っている。

魚の行動パターンを把握し、再び川へ舞い戻る。ここでようやくドライフライを諦め、ウエットに切り替えた。まずはリードフライを#12、ドロッパーを#8にしてアップストリームで狙う。手前に流れてくるラインには何の手応えもない。フライのサイズとパターンを変えるが、やはり釣れない。この時間帯はあっという間に真っ暗になるので時間との戦いだ。数投した後、作戦を変えるべく早めに切り上げた。

高巻いた途中から釣るしかない。この位置ならサイドやダウンで釣りをすることができる。掛かった後の取り込みのことはあまり考えていなかった。針掛かりさせる事が自分にとっての課題だった。
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背後の木の枝に気を付けてフライをキャスト。およそ5m程水面上から釣っているので大ヤマメが何処にいるか一目瞭然だ。大ヤマメの付いている流れにサイドクロスにフライを流すとヤマメはフライに反応した。#10のファイアリーオレンジをくわえたと思ったが、フッキングしない。その後フライをとっかえひっかえしながら、まるでモグラ叩き状態で大ヤマメの目の前に何度も何度もウエットフライを叩き込んだ。

しかし一段と暗闇が迫り、さすがの大ヤマメの青白い姿態も、もはや確認できなくなった。たぶんまだ餌を捕り続けているのだろうが、暗くなった斜面で釣り続けるのはこれ以上は無理だ。諦めざるを得なかった。完敗である。

茫然自失となり、真っ暗な中ようやく車へたどり着く。疲れ切っているため、ウエディングシューズを脱ぐのにもため息がもれる。

帰り支度を整え、真っ暗な林道をのろのろと車を走らせる。「悔しい・・・」

予定では、その日の午前中のうちに大ヤマメを釣り上げ、午後は意気揚々として別の渓へ行っているはずだったのに。すっかり予定が狂ってしまった。「よし、今晩はこの付近に泊まり、明日の朝もう一勝負しよう。」

コンビニで弁当とビールを購入し、車の中で遅い食事を摂ったのは夜10時を過ぎていた。その日の反省と明日の作戦をあれこれ練りながらビールを飲むが、目をつぶると大ヤマメの舞がはっきりと瞼に浮かぶ。ほぼ一日中見ていたのだから仕方がないか・・。大ヤマメの舞を脳裏に描いているうちに酔いも回り、戦法も決まらぬうちに睡魔に襲われて寝付いてしまった。
7月17日、ワイルドキャナリー on DU3 リマリックスピナー#10で釣った会心のヤマメ30cm。
翌朝も前日と同じように薄暗いうちに川岸へ降り立った。

今朝はSDパワースペイで挑んだ。魚の居る場所はあそこに違いない。まずは#12のワイルドキャナリーでスタート。フライへの反応は無い。何度かフライを水に浮かべてみるが反応がないため、ひとまず上から確認することにした。

やはりいつもと同じ場所に居るではないか。「何が悪いんだ?!」もう一度川へ戻って、#16のワイルドキャナリーを投げるが何事も起こらない。すかさずウエットの#12を使ってみたが無駄であった。

このまま釣りを続けても昨日と同じ結果になるであろう。それでもフライをくわえてくれるかもしれないと、手を変え品を変え、淡い期待で竿を振った。
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自分のセオリーの範疇の中でありとあらゆる事を試してみたが、やはりフライに食いついてはくれない。「この状況ではこの魚は釣れない魚なんだ・・。」と諦めざるをえなかった。9時過ぎにこの川を後にした。

この時間から別の川に行ってもあまり釣果は望めそうにないが、このままこの川で釣りをするよりは別の川に行った方が気が紛れそうな気がしたからだ。

イワナを釣りたくなった。疲れ切った精神力のまま、緊張の連続するヤマメ釣りはする気にならなかったのだ。イワナ釣りならのんびりとできる。その日は快晴で、爽やかな流れを遡行する源流部のイワナ釣りはすがすがしく思えた。

昨日も森の中の渓流だったのだから自然には餓えていないはずだが、丸一日ほとんど同じポイントにいたためか、新しい流れは一際新鮮に感じる。幸い何匹かのイワナを釣ることができ、先程までの暗い気持ちから解放された。ひとまず3時過ぎに沢から上がり、これからどうしようか考える。

当然のようにまた例の大ヤマメの誘惑が脳裏をよぎる。やれることをやっておかないと後悔する。「えーいこの際だ、ダメ元でもう一度あのヤマメにチャレンジしよう。」自分ながら呆れた。

現場へ着いたのは5時少し前。とりあえず魚が居るかどうか確認する。「居た居た。」相変わらず優雅な舞いを踊っている。
sawatari

さて、いかにして釣りをするか?。いままでと同じ事をしても結果は見えている。やらなかったことをするしかない。今までは#16までのフライしか使っていない。もっと小さいフライと細いティペットを使ってみよう。

たくさんの釣り道具を収納してあるバッグの中に、随分と以前に巻いたものであったが18番、20番のフライや6X、7Xのティペットが入っていた。そのシステムにはARオリエンタルに3番ラインがちょうど良い組み合わせだろう。

今回は堰堤の上の斜面から、ひとまずドライフライの釣りをしてみることにした。とりあえず、フライも様々なサイズのスピナー、ジャシッド、セッジを投げてヤマメの反応を見てみる。唯一ブラックジャシッドの#16には反応をしたが、まだ何かが気に入らないらしい。それでも流下してくる、とても小さなものを頻繁に捕食している。

今までは使わなかった、これまた昔に巻いたパラシュートアントに変えるとフライのすぐそばまで近づいてくるが、くわえるところまではいかない。そこでいよいよ6Xにミッジの登場と相成った。
7月30日、こちらはスペックルドセッジ on DD2 フラットパーフェクト#10でヤマメ32cm。
針掛かり後の取り込みを考えて、川岸から釣りをすることにした。フライは極小さいので、見失わないようにできるかぎり近づくことにした。水際3m程の位置から河原にしゃがみ込んで身をかがめ、魚に感づかれないように短いラインでのフォルスキャストを一度だけ行い、プレゼンテーションする。

魚の捕食する範囲を漂うように#18のフライを浮かべる。水面の乱反射があるため水中のヤマメの様子が全く見えない。フライを見失わないように気を付けていると、大きな陰がフライの数cmそばへ接近した。一瞬ドキっとしたが、フライには食いつかなかった。

すかさずフライを#20に変えた。先程と同じようにフライを浮かべる。クルージングしているヤマメなので、見つけて貰うためにもなるべく長く漂わせておきたい。流れ出す筋にフライを乗せないように、リーダーやティペットの置き場所に注意を払った。
sawatari

昨日までの緊張感はもはや無く、なかば諦めにも似た比較的ゆったりとした気持ちでフライを眺めていた。すると水面の乱反射の隙間からゆらりと何か動いたと思ったら、その陰は小さなフライを吸い込んだ。

身構えていたわけではないので不意を付かれたような感じだったが、早アワセをしないように冷静に行動できた。「いちにのさん」のタイミングで、魚が乗ってくれるように祈りながらオリエンタルを立てた。その瞬間オリエンタルは大きく弧を描いた。

「乗った!」

大ヤマメはフッキングした場所から移動せずに尾鰭で水面を叩いて派手に暴れている。水面には大きな飛沫が飛び散った。何が起こったのか判らず、パニックに陥っているのであろう。水際に構えていたおかげで魚のもとに咄嗟に駆け寄り、背中のランディングネットを外して一気に取り込んだ。冷や冷やするようなファイトは無く、あっけない程あっさりとした取り込みであった。

6時ちょうどのヒットだった。「よし、40ある!」と確信した。ネットに入った大ヤマメを岸際の水辺に横たえ、早速メジャーをあてる。

ようやく40オーバーを手にしたと喜んだのも束の間で、何度測っても39.5cm。残念ながら40cmに5mm足りない。しかし、5mmではあるが自己記録更新だ。

かなりの老成魚のようで、尻鰭はしわしわで産卵後の回復もままならなかったようだ。自然の厳しさを垣間見たような気がした。
40オーバーか、と期待したが、何度測っても39.5cmだった。
自分にとって#20というミッジフライで釣った初めての大物である。よくぞ掛かってくれたものだ。フライは喉の奥の鰓に運良く引っかかっていた。細いティペットのおかげか、フライの吸い込みが良いのだろう。しかも今回使ったフライはスタンダードパターンと違い、フックポイントが剥き出しなので小さいけれども思っているほどフッキングは悪くないのかもしれない。

鰓を傷つけないようにフォーセップでやさしくフックを外し、急いで写真撮影した。幸いストロボを使わないで撮影できるぎりぎりの時間帯だった。撮影の後、「もう釣られるなよ」と都合の良いことを思いながら流れに返してやった。
sawatari

この大ヤマメ、二日間に渡ってよくぞ長い時間下手な私に付き合ってくれたものだ。この一匹の魚のおかげでたくさんの勉強をさせられた。サクラマスに鍛えられた粘り強さがこんなところで発揮できたとは・・。

自分のできるかぎりの技術を駆使し、最後は普段は使うことのない方法で釣り上げることができた。思えば初日の朝に#14のスペントバジャーで食わせたときにフッキングできなかったのが最大の失敗だったのだろう。粘った末に釣り上げることが出来たのは幸運だったとしか言いようがない。

しかし自分の中では納得のいく釣りでなかったのは確かだ。今まで目標としてやってきた「フライフィッシングらしい格好いい釣り」で釣ったのであれば喜びもひとしおだったのに。

渓流のドライフライの場合であれば、離れた場所からキャスティングを駆使し、スピナーなどのスタンダードパターンで、イメージ通りのナチュラルドリフトを実現し、想定していたところから自然に魚が出てフライに食いつき、最適のタイミングでアワセを行い、釣りあげることが出来れば最高だ。

今年の7月中旬、#10のワイルドキャナリーを20ydのプレゼンテーションで釣った30cmの雄ヤマメはまさに会心の釣りで、最高に気分の良い一匹だった。

「達人の世界」が自分のバイブルである。釣れるからといって、なりふりかまわずの無粋な釣りをしたくはない。キャスティングを楽しみ、フライらしいフライを使って、すなわちフライフィッシングらしい粋な釣りをして、大物を釣り上げることに喜びを感じている。

これからも、更に「粋な釣り」に磨きを掛けて達人に近づきたいと思っている。

そういえば釣りの先輩に、今回釣った魚が39.5cmだったんだよという話をしたら、「ゴウさんは正直だねー。普通の人なら40cmと言ってるよ。」と言われた。確かにそのとおりのことは釣りの世界では日常茶飯事だ。27・8cmでも尺モノという輩まで居る。

しかし、自分にとっての「尺」や「40cm」は特別な意味がある。自分にも嘘は付きたくなかった。来年こそは40オーバーのヤマメを釣り上げたい。
釣った日の天候 Weather of the day:快晴
水量・水量の変化など The Volume of Water:平水