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スティールヘッド編  --第110話--

ナブラ

コーホー・サーモンをフライで釣るには、彼らが表層に出ていることが条件となる。延べ3日間釣りをしたが、コーホーが表層に現れたところにぶつかったのは一日に2~3回ほどであった。
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ニシンを狙ってコーホーが浮上した時がチャンス。

それは丁度日本の海でカツオやイナダを釣るのと変わりなかった。潮の干満や潮流と関係があったのだろうが、良い時は水面に小さなエビが浮上する。群れが大きい時はそのエビで水面が真っ赤になった。するとそのエビを狙ってニシンが浮上する。水面が波立ち、まるで夕立が降っているようだった。
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フッキングと同時に小気味良いファイトをする小型のコーホー・サーモン。

そんな光景に見とれていると、いつの間にかコーホー・サーモンの群れがニシンを包囲していた。群れを遠巻きにして追い始める。本当に相模湾でカツオやメジマグロを釣っているときと同じ光景が繰り広げられた。
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50cm程のサイズはコーホー・ジャックと呼ばれる。

水面を破ってサーモンが跳ね始めるのを合図にフライを投げ、直ぐにラインを手繰った。良い時は投げる度に当たりがあり、私はその小気味良い引き味を楽しんだ。しかし表層に浮上して餌を採るのはコーホー・ジャックと呼ばれる小型ばかりで、大型はなかなか姿を見せない。私はブルースに、もっと大きいサーモンは居ないのかと尋ねた。彼が言うには、条件が良い時なら大きなサイズのサーモンも水面に現れるが、大型魚はもっと深い所に居ることが多い。この付近で大物をフライで釣るのは少し難しいとのことだった。

最終日の夕方近くになって、ブルースは大きなコーホーを釣りに行こうと云いだした。但しフライでは釣れないと付け加えた。私は興味があったのですぐさま賛成した。ブルースはボートを全速で走らせ、小さな島の側へ向かった。そこは一目で判るほど潮が速かった。彼はまるで日本の漁師がやるように、両手を広げてラインを一尋、二尋と計り、ニシンを付けた仕掛けを凡そ20mほど沈めて流した。
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大型のコーホーが釣れるポイントは、何時も混みあう。

当たりは直ぐにやって来た。大きなサーモンとは思えないほど小さく静かな当たりだった。それから心配になるほど長い時間待ったあげく、ボートを走らせてフッキングした。針掛かりしたコーホー・サーモンは凡そ10ポンドほど。ジャックと呼ばれていたサイズから見ると、随分と立派に見えた。

スティールヘッド

少しばかり慌ただしい釣りが終了した後、私は港に流れ込んでいるキャンベル・リバーにスティールヘッドが居ることを聞いた。
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トロフィー・スティールヘッド。30ポンドクラスの迫力に、度肝を抜かれる。

驚いたことに、そのスティールヘッドが時々フライで釣れていた。更に因縁めいていたことに、実績のあったフライの一つがまたしてもマドラー・ミノーだった。しかし問題もあった。キャンベル・リバーに遡上するスティールヘッドの数がそれほど多くなく、近い将来釣れなくなってしまう危険があった。
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もう一つ心を動かされたのは、リーバー・スポーツマンに飾ってあった巨大なスティールヘッドの剥製だった。しかしよく見ると、それはトンプソン・リバーで釣れたものだった。あの広大なトンプソン・リバーにはこんなに巨大なスティールヘッドがいる。

近い将来スティールヘッドを釣る。勿論フライで。そしていつの日かトンプソン・リバーを目指す。私はそのとき心に誓った。そして全く一から計画を練り始めた。

-- つづく --
2014年09月26日  沢田 賢一郎